有用性試験
近年、化粧品の有効成分について、ヒトによる製品評価だけでなく細胞レベル(in vitro)での有用性メカニズムの解明が求められるようになってきています。
化粧品分野での代表的な細胞を用いた有用性研究としては、「コラーゲン・ヒアルロン酸等の産生促進についての研究」があります。細胞レベルでのコラーゲン・ヒアルロン酸の産生が上がれば、シワの軽減や肌弾力改善・肌の保水力の向上などが期待できる、といったものです。
その他には美白関連や老化のサインとなる標的タンパクまたは酵素量の増減を調べたり、炎症性サイトカインや分解酵素等を指標とした研究も多く行われています。
さらにタンパクや酵素を指標とした遺伝子の発現量を研究し、関連タンパク量との相関や生体内で次に起こるであろう反応を研究する事で有用性メカニズムを詳細に解明していきます。
細胞での有用性研究でポジティブな効果の結果を得た後、実際にヒトを用いた臨床試験へ移行するというステップを踏む事で、あらかじめ効果を予期した臨床研究ができるのです。
QuSome®の有用性研究の目的
QuSome®は浸透テクノロジー素材ではありますが、“浸透”以外の有用性効果に関しても研究を行っています。
この研究で浸透以外の有用性が見出せれば、浸透してなおかつ自ら有用性を発揮する画期的な“浸透テクノロジー素材”として、化粧品成分としての活用の幅が広がる可能性があるからです。
このページでは、QuSome®の有用試験の内容と結果をいくつかご紹介します。
※QuSome®を形成する素材は、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG23グリセリルなど複数存在する。
保湿作用
保湿及びバリア機能強化の有用性試験 (クリックタップで詳細を表示)
使用した遺伝子
SPT:セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(スフィンゴ脂質合成における律速酵素)
FLG:フィラグリン(角層でアミノ酸等に分解され、天然保湿因子(NMF)になる)
方法
ヒト正常表皮ケラチノサイト(NHEK)を用いて、QuSome®を形成する成分である、「ジミリスチン酸PEG12グリセリル」「ジステアリン酸PEG12グリセリル」「ジステアリン酸PEG23グリセリル」をそれぞれ3, 6, 24時間培養し、RNAを単離・PCRにて発現量を測定しました。
結果
SPTについては、遺伝子の発現量に変化が見られませんでした。
つまり、セラミドの合成促進を促す作用はなく、セラミド産生促進によるバリア機能の向上については期待できない結果であるということです。
(上記結果から、セラミド産生関連の検討はストップしました。)
FLGについては、遺伝子発現量の増加が見られました。フィラグリン量が増えるという事は、角層で天然保湿因子(NMF)になる材料が増加する事で保湿に関する成分が増えている=保湿機能の向上が期待できるという結果が出たということです。
(FLGに関しては、上記結果からさらなる研究を行いました。)
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保湿作用 その1 (クリックタップで詳細を表示)
次に保湿機能向上が期待できるフィラグリンタンパクの量が、「保湿及びバリア機能強化の有用性試験」の結果通り、実際に増加しているかを検証する試験です。
方法
ヒト正常表皮ケラチノサイト(NHEK)を用いて、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・及びジステアリン酸PEG23グリセリルをそれぞれ72時間培養し、Dot blotting法でフィラグリンのタンパク量を測定して評価します。
結果
N.C.(未処理)よりも、ジステアリン酸PEG23グリセリル、並びにジミリスチン酸PEG12グリセリルを加えて培養した細胞は、比較的に白いドットが明るくなる結果が出ています。
これはフィラグリンのタンパク量が増加しているといことを実証しています。
数値の面から見ても、成分を加えて培養した細胞の方がフィラグリンのタンパク質が多く発現していることがわかります。
フィラグリンは元々「プロフィラグリン」という大きなタンパク質として、肌の奥深くでフィラグリンの遺伝子を元に発現します。
このプロフィラグリンが酵素などによって分解されることで、フィラグリンとなり、肌の表面にターンオーバーで移動していく過程で、さらに分解されて肌の保湿のキーとなるNMF(天然保湿因子)になります。
つまりフィラグリンの遺伝子が多く発現することで、プロフィラグリンの量が増え、NMFの元となるフィラグリンも増加し、肌の保湿やバリア機能向上につながるということです。
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保湿作用 その2 (クリックタップで詳細を表示)
フィラグリン分解に関連する酵素の遺伝子の発現量で、フィラグリンを増やす方法以外での保湿作用に関する有用性を評価する試験です。
使用した遺伝子
CSP-14:カスパーゼ-14(フィラグリン分解酵素)
BLMH:ブレオマイシン水解酵素(フィラグリン分解酵素)
方法
ヒト正常表皮ケラチノサイト(NHEK)を用いて、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・及びジステアリン酸PEG23グリセリルをそれぞれ3, 6, 24時間培養し、RNAを単離・PCRにて発現量を測定します。
結果
ジステアリン酸PEG23グリセリルについては、どちらの酵素も変化がなかったので
フィラグリン量を増加させる作用のみである事がわかりました。
ジミリスチン酸PEG12グリセリルは、カスパーゼ-14の酵素量が増加したので、効率よくNMFが産生できると考えられます。
※BLMHは増えませんでしたが、元々生体内に存在はしている酵素です。
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保湿作用 その3 (クリックタップで詳細を表示)
三次元皮膚モデルを用いて、ジミリスチン酸PEG-12グリセリルのフィラグリンタンパク発現をビジュアル化(可視データで取得)し、保湿作用の有用性を評価します。
方法
LabCyte EP1-MODEL24 6Dを用いて、ジミリスチン酸PEG12グリセリルを添加し、18時間培養して、ジミリスチン酸PEG12グリセリルを取り除き、さらに6日間培養しました。それを抗フィラグリン抗体を用いて、免疫染色を行いフィラグリンタンパクを観察します。
結果
ジミリスチン酸PEG12グリセリルで、細胞内のフィラグリンタンパク量が濃度依存的に増加している事が確認できました。
※FLG(フィラグリン)の段の緑の蛍光がフィラグリン、青は細胞の核を染色しています。
表皮細胞は角層では核を失いますので、角層以下の細胞で細胞核が存在します。
画像の結果は、フィラグリン(緑)が角層部分(青がない部分)で、ちゃんと存在している事を意味しています。
(*NMFが存在するのも角層部分)
HEは、三次元皮膚モデルの細胞が崩れていないか(細胞毒性がないか)を確認するための検証画像です。
結果はどの細胞もくっついており、細胞は正常である事を表しています。
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抗炎症作用
有用性(抗炎症)評価. 1 ~UV刺激に対する評価~ (クリックタップで詳細を表示)
試験試料の表皮細胞(NHEK)におけるUVB耐性作用を評価します。
方法
NHEKを2.0×104 / wellの細胞密度で播種します。
ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG12グリセリル及びジステアリン酸PEG23グリセリル含有培地で24時間培養します。
培地交換後、UV-Bを50mJ/cm2照射処理し、さらに24時間培養してから、ニュートラルレッドアッセイで細胞の生存率を測定しました。
結果
UVB(+)において、0(コントロール)との比較で、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG23グリセリルを加えた事で細胞生存率が上昇している結果が出ました。
つまり、UVB刺激に対する耐性が上がったということです。
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有用性(抗炎症)評価. 2 ~各炎症性サイトカインの抑制検証~ (クリックタップで詳細を表示)
目的
試験試料の表皮細胞における紫外線惹起炎症に対する抗炎症作用を評価します。
方法
NHEKを4.0×104 cells / wellの細胞密度 で播種し、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG12グリセリル及びジステアリン酸PEG23グリセリル含有培地で24時間培養します。
培地交換後、UV-Bを20mJ/cm2照射処理 し、さらに24時間培養。
ELISA法を用いてプロスタグランジンE2及びインターロイキン1αの産生量を測定しました。
*非照射群(UVB(-))の試料未添加(コントロール)の各産生率を100%とし、プロスタグランジンE2及びインターロイキン1αの産生抑制率は以下の式1及び2で算出しています。
式1:プロスタグランジンE2 (PGE2) 産生率(%)=UVB(+)/UVB(-)×100
式2:IL-1α産生率 (%)=UVB(+)/UVB(-)×100
プロスタグランジンE2(PGE2):炎症の原因となる生理活性脂質の代表種
インターロイキン1α(IL-1α):炎症を引き起こす際に誘発される炎症メディエーターの1つ
結果
炎症を引き起こす際に誘発される炎症メディエーターの産生を、各濃度のサンプルをあらかじめ細胞に処理する事で炎症メディエーターの産生量を減少できました。
抗炎症作用が認められたということです。
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有用性(抗炎症)評価. 3 ~大気汚染物質による刺激に対する評価~ (クリックタップで詳細を表示)
背景
昨今、近年大気汚染物質であるPM2.5による健康被害の懸念が報告されています。
大気汚染物質の人体への悪影響として、ROS(活性酸素種)が発生して各細胞・臓器にダメージを与えていることが確認されています。
そこで本来ヒトが兼ね備えている体内の抗酸化機能の強化は、大気汚染物質暴露による健康被害を軽減できるという仮説を立てました。(参照リンク)
試験試料の表皮細胞(NHEK)における大気汚染物質への耐性作用を評価します。
方法
NHEKを2.0×104 cells / wellの細胞密度 で播種し、ジミリスチン酸PEG12グリセリル及びジステアリン酸PEG23グリセリル含有培地で24時間培養します。
その後、0%または5%DPEを含む培地に交換して24時間培養後にタンパク量を定量して評価しました。
結果
0%DEPでは、各サンプル自体に細胞傷害性がない事を確認しました。
(Controlと比較して減少なし=傷害性の影響なし)
5%DEPのControlでは、タンパク量が減少しています。(細胞が傷害を受けて減っている)
上に対し、各サンプルで処理する事でタンパク量の減少が抑えられています。
したがって、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG23グリセリルの処理でDPEによる細胞が傷害を受けるのを緩和できたということです。
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有用性(抗炎症)評価. 4 ~各炎症性サイトカインの抑制検証~ (クリックタップで詳細を表示)
試験試料の表皮細胞における大気汚染物質で起こる炎症に対する抗炎症作用を評価します。
方法
NHEKを2.0×104 cells / wellの細胞密度 で播種し、ジミリスチン酸PEG12グリセリル・ジステアリン酸PEG23グリセリル含有培地で24時間培養します。
0%または5%DPEを含む培地に交換して、さらに24時間培養。
ELISA法を用いてプロスタグランジンE2及びインターロイキン1αの産生量を測定しました。
プロスタグランジンE2(PGE2):炎症の原因となる生理活性脂質の代表種
インターロイキン1α(IL-1α):炎症を引き起こす際に誘発される炎症メディエーターの1つ
DPE (Diesel Particle Extracts) = 大気汚染疑似物質
結果
UV-B刺激同様に抗炎症作用が認められました。
5%のDPEを処理する事で誘発されるプロスタグランジンE2の産生を各濃度のサンプルをあらかじめ細胞に処理する事で産生量を減少できています。
5%のDPEを処理する事で誘発されるインターロイキン1-α(炎症メディエーター)の産生を各濃度のサンプルをあらかじめ細胞に処理する事で減少できています。
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抗酸化作用
有用性評価(抗酸化作用). 1 ~抗酸化関連遺伝子発現~ (クリックタップで詳細を表示)
生体内抗酸化システム及び抗酸化機能に関連する酵素及びタンパクの遺伝子が発現する量で評価します。
生体内抗酸化システムとは
人は酸化ストレスに対して、防御する抗酸化システムを体内に元々兼ね備えています。
生体内抗酸化システムとは、酸化ストレスを受けると、体内を守るために抗酸化酵素などの物質を作る仕組みのことです。
酸化ストレスに対する生体防御機構では、酸化ストレス応答転写因子であるNRF-2が重要な役割を果たしています。
NRF-2は通常Keap-1タンパクと結合していますが、酸化ストレスが掛かると、NRF-2は細胞の核内に移行して抗酸化物質の産生を誘導させます。
またPPAR-γはNRF-2と相互に刺激しあい、体内の抗酸化活性を高めています。
基本的に酸化ストレスで働く抗酸化システムですが、特定の構造の物質によっても機能することが最近の研究で明らかになっています。
使用した遺伝子
PPAR-γ:ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体の一種。
Nrf-2:酸化ストレスに応答して誘導される遺伝子の調節で重要な働く転写因子。
NQO-1 : NAD(P)Hキノン還元酵素。( 二電子還元を触媒する酵素)
HMOX-1 : ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)。(酸化ストレスから生態を防御する酵素)
CAT : カタラーゼ(過酸化水素を水と酸素に分解する酵素で、毒性作用から細胞を保護)
方法
ヒト正常表皮ケラチノサイト(NHEM)を用いて、ジステアリン酸PEG23グリセリルを6時間培養し、RNAを単離・PCRにて発現量を測定します。
結果
QuSomeを形成する成分であるジステアリン酸PEG23グリセリルは、生体内の抗酸化システムを増強することが分かりました。さらに、酸化ストレスから細胞を保護する酵素やタンパクの発現を増幅する事も確認できました。
ジステアリン酸PEG23グリセリルは、浸透だけでなく生体内の抗酸化システムを増強するということです。
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有用性評価(抗酸化作用). 2 ~細胞内グルタチオンの測定~ (クリックタップで詳細を表示)
細胞内グルタチオン量測定 実験方法
まず、ヒト正常表皮メラノサイト(NHEM)を2.0×104 cells / wellの細胞密度にて96 穴培養プレートに播種します。
その後、各濃度のジステアリン酸PEG23グリセリル(GDS-23 : 0μM, 500μM, 1,000μM, 2,000μM)を含む培地に交換し、24時間培養します。
TaKaRa BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社)を用いてタンパク量の定量及び、総グルタチオン(GSH+GSSG)量をグルタチオンレダクターゼリサイクリング法により定量しました。
試料無添加をコントロールとしました。定量したタンパク量と総グルタチオン量からタンパク量あたりの総グルタチオン量を求め、コントロールを1とした時の「試料添加」の増加比を算出して評価しました。
結果
高い抗酸化力を有するグルタチオンを細胞内で産生促進する事が確認できました。
ジステアリン酸PEG23グリセリル(GDS-23)は、生体内の抗酸化に関わるタンパクや酵素を増加させる事から、様々な酸化ストレスによる細胞ダメージに対する耐性を向上させる事が期待できます。
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進化系ビタミンA+QuSome®
有用性評価. 1 ~進化系ビタミンA+QuSome®~ (クリックタップで詳細を表示)
全層モデルを用いて進化系ビタミンA+QuSome®の抗老化作用を評価します。
方法
真皮付3次元培養皮膚モデル (T-Skin) の角層側から試験製剤を適用します。
製剤適用から72時間後に製剤をPBS洗浄にて除去し、培養終了後の生存率をアラマーブルー法で量ります。
さらに、回収したT-Skinを半分にカットし、RNA抽出しリアルタイムPCR法で抗老化関連遺伝子の発現変化を確認する。もう半分は、パラフィンブロックを作製し、組織染色およびin situハイブリダイゼーションにて抗老化関連遺伝子発現の状態を可視化して確認します。
結果
Placebo比較して、進化系ビタミンA+QuSome®による賦活作用が認められたことで、生存率の有意な増加が確認できました。
また、組織染色像からは、進化系ビタミンA+QuSome®による表皮層状態の変化が観察されており、進化系ビタミンA+QuSome®による何らかの作用が期待できることが分かりました。
Placebo比較を行い、進化系ビタミンA+QuSome®によるⅠ型コラーゲンα1、エラスチンおよびフィブリリン-1遺伝子の発現亢進が認められました。
今回、発現亢進が認められた遺伝子は真皮線維芽細胞で優位に発現しています。
したがって、角層側から適用した進化系ビタミンA+QuSome®による真皮線維芽細胞に対する作用が確認されたことからも、進化系ビタミンA+QuSome®はアンチエイジング剤としての効果が期待できるということです。
リアルタイムPCR法による結果と同様に、進化系ビタミンA+QuSome®によるⅠ型コラーゲンα1遺伝子発現亢進が確認され、その局在は真皮線維芽細胞内に観察されました。
角層側から適用した進化系ビタミンA+QuSome®による真皮線維芽細胞に対する作用があるということです。
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